ダイスキナキミニヒトツウソヲツキマシタ。

貴様ガ翳シタ愛ト平和。
壊すのも崩すのも、弄ぶ事もすべては手の内で。
信じてると、鉄格子の隙間から叫んだあの日、ヤツは故に信じる存在を亡くし。

暗い牢に閉じ込められたヤツに、一つだけ嘘を囁いて。


11.大好きな君に一つ嘘をついていた。






紫暗の髪を高いツインテールで纏めた青年は、謁見の間の赤い絨毯の上に跪いたまま、主の言葉を待っていた。
彼は王座に酷く近い位置で頭を垂れている…実際、そのまま手を取って甲に口付けを落とせそうなほどに。

「賊軍の鎮圧、ご苦労だった」
「……うん」

己の主とあろう王座に座る人物に、歳相応の低い声で答える青年。
しかし、その口調は主従関係ではありえない程砕けている。

「主犯格の者どもは捕まえたのだろうな?」
「鳥のオッサンが引っ立ててたよ。オレは倒しただけ」
「ふん…、随分とタンタンメンを立てるではないか? 借りでもつくったか」

青年が俯いた顔を上げ、伏せがちだった眼がキッと主を見た。
視線で射殺せそうな位、強い…眼。
しかし、一瞬でそれも消え、代わりに口元には笑みが浮んでいた。

「主犯格の一人が思わず殺ッちゃいそうな奴でさぁ〜、
オッサンに捕縛命令が出てるの怒鳴られなかったら思わず忘れてるところだったんだよー?」
「フン…と、言うことは『アレ』だったのだな?…なにか戯言などは言ってなかったか?」

クツクツと喉を鳴らしながら、答えを待ち望んでか…嘲ている様な表情を浮かべる。

「『あのお方はアナタ様を裏切った訳ではない』とか言われたよ?そんなこと何度も聞いたって言うのにさー。
腹立ったからその辺に居た奴刺してやったら、『どうか正気にお戻りくださいあのようなモノの洗脳など振り払って…』以下略。
いい加減うざくなったから主犯以外全部…ね?」

主犯の男が言ったであろう言葉はすべて棒読みだった。
青年は言い終わるとすぐにわざとらしい大きなため息をついて…肩を竦める。
王座に座った主は青年へ満足そうな笑みを漏らして、彼の頬にと手を伸ばした。
ガントレットをつけてない大きな白い手が、青年の頬に触れる。
いとおしそうに青年はそれに幾度か頬擦りすると、その手に、青年は己の手を重ねた。


ダイスキナキミニヒトツウソヲツイテイタ。
とても重大で、深刻な、嘘。
それで居て、酷く軽率に扱えた、嘘。


「お前は自分で私を選んだのだろう…?」
「もちろんッ、オレがアイツを選ぶ訳無いだろ〜?」

重ねられた手に、主はどこか愉快そうに目を細める。
主の手と程はいかないがそれなりに大きな手。
数年前まで純粋に生き抜く為・夢をかなえる為に使われた拳は、今では彼の人の殺戮の為に使われて。

「オレは、見捨てられたんだよ?」

青年の紫色の瞳には不安定な狂気が宿って、美しく輝く。
甘く微笑むような表情で憎悪を撒き散らした彼は、どこか嬉しそうに言葉を続けた。

「だから、オレはアイツを憎むんだよー?
殺すだけじゃ足らない、単純な『死』なんかじゃない。
一番の恐怖と苦痛を与えて―――生かしてやる」
「『死』よりも残酷な『生』、か…」
「…オレには、その資格があるんだよ??」

知ってるだろ?そう言って、王座に座り込む主の胸元に飛び込む。
すると、ニヤリ、といやな笑みを浮かべて、主である男は彼を抱きとめた。

「そうだな」

感慨もなさそうに一言呟くと、手馴れた手つきで青年の服を剥いで行った。
独り真実に想いを馳せて。


ダイスキナキミニヒトツウソヲツイテイル。

彼が青年を見捨てたのは嘘ではなかった。
ただ、見方によっては主が言ったように見捨てたかのようにも見えるし、守りたい故に残したとも取れた。
未だ青年が幼い頃、貴様は見捨てられたのだと囁いた。
幼いくせに頑なに信じようとせず、否定していたが。


ダカラ『ダイスキナキミ』ニウソヲツイタ。


それが真実になるように。
忠実な僕になるように。



貴様ガ掲ゲタ愛ト平和。
生キル意味ナラ、俺ガ与エテヤロウ。
虚飾デシカナイ、現実デハナイソレヲ―――

貴様ガソレニ気付ク日ハ来ナイダロウケレド。


「ね、今日もあの言葉…言ってくれる??」
「…ああ。飽くぐらい言ってやろう」



『アイシテイル』