森に、そのひとを呼び出したのは自分。
ただ、逢いたいだけだった。

SA-DA-ME


口内が侵食される。
突然の事だったせいか、コロッケは身体が動かなかった。
不意をついたディープキス。
自分にはまだ早すぎると思っていたそれは、災いのように突然降って湧いた。
無理矢理ひとつに纏められた両手が痛い。

必要以上に抵抗できなかった。

それは、目前のヒトが彼よりも何回りとも体が大きいせいでは無い。
むしろそれだけだったのなら、そうやすやすと手錠で一つに纏められたりはしなかったし、その手錠を壊してだって抵抗してた。

青い、青い肌が紫水晶のような瞳に焼きつかれてく。
紅い髪は、揺らぐ焔の様に風に漂っていた。
やがて、がくん…と肩の力が抜けて体に力が入らなくなる。
しかし、片腕で抱きとめられ直も唇は離れなかった。

意識が霞んで行く。
どくんどくんと脈打つ鼓動が五月蝿いと感じた瞬間、ようやく酸素供給を赦された。
ハァハァと、肩で息する音が聞こえたが、それはコロッケのモノだけで。

「もぅギブアップかぃ?ぼうや……」

片手で腰砕けになったコロッケを支えて、彼の頭上近くでは手錠で纏められた腕をもう一方の手で弄んでいた。
久しぶりに逢った…死んでいたと思っていた友は、まるで外見と声だけトレースしたかのように、かつての友とは違って。
振りまく空気も、温和な口調も、どこか鋭すぎる刃を向けられたような冷たい感じだった。
優しかったカオに酷くイヤな笑みが浮かぶ。

「オレはぼうやのことなど知らんと言っているんだ…、まだ判らないのか?」
「…うそ、だ…ふぉん…ど…」
「嘘なんかじゃないさ。
…あんまり聞き分けの無いガキには、お仕置きが必要になってくるんだがな」

手錠をぐっと引き上げて、支えていた手を離した。
幼い悲鳴があがる。腕に手錠が食い込んだのだった。
重力はコロッケの身体に過酷に圧し掛かっていた。

リストバンドがあったことが唯一の救いだったかもしれない。
痛烈な感覚はそこで少し和らいだ。

唐突にフォンドヴォーは再度コロッケの腰を抱き上げ、手錠が食い込んでいた部分を確認する。
肌に赤い線が残っていた。
一番圧迫の酷かったところは紫に変色していて痛々しい。

「…ぃっ…ふぉんッ…ど…ぉー」
「くどいな小僧。それとも…これ以上おしおきされたいのか?」

つっ、と、出来た痕を舌で舐められた。
手錠と手錠を結ぶ鎖が酷く綺麗な音を奏でる。
ぬるりとした感触が、背中に不快とも快感とも取れないゾクリとしたものを走らせて。

「…ぃやだッ、やめろ…やめろよ…ッ!」

意識せず声が大きくなって、更に鎖はチャラチャラと耳障りな奇麗な音を立てた。
それに煽られるようにフォンドヴォーの舌は、先端―――手首から手の甲を通り、指先に絡めだす。
抵抗し、暴れだすコロッケを片手で制して、まるで指先に付いた水あめでも貪るように舐めていた。



「…っち!」
「―――あぅッ!」

不意にフォンドヴォーがコロッケを突き飛ばす。
また、自身も跳躍して彼から距離を取った。
どこかでみたような光球がフォンドヴォーとコロッケの間を裂くように、奔り抜ける。
まともに後ろに倒れこみそうなコロッケの身体が、直前に誰かに支えられた。

フォンドヴォーでは無い。

何故ならコロッケの視界の隅で、追尾してきた光球を背に負った棺桶で弾いている姿が見えたから。
艶やかな銀糸がふわりと、コロッケの肩口から覗く。

「ふん…腰抜け王子様じゃないか。
いきなり攻撃とは…随分無粋なことをしてくれる」
「―――ほざいてろ」

いつもの無感情な声に少しだけ、コロッケには怒気が篭って聞こえたような気がした。
優しく受け止められた背中が、どこか痛かった。

「……りぞッ、…と?」
「はん…まぁ良い。
とっととそのガキを連れて消えるんだな。
莫迦なガキほど嫌いなモンは無いんでね…!!」

そう吐き捨てるとフォンドヴォーは、すっと二人の横を通って城の方向へ遠ざかっていく。
まともに立てないというのに、踵を返し追いすがろうとしたコロッケを抑えて、リゾットが口を開いた。

「フォンドヴォーは…敵なんだ」

自分自身に言い聞かせるように呟く。
次いで、己さえ信じたく無い言葉を口にした。

「そういう、運命なんだよ……ッ!」


運命と呼ぶには余りにも稚拙だという事に気付いているというのに。
コロッケの顔を見る。
涙が今にも零れんばかりに溜まっていた。
リゾットは宥める様に彼を抱きしめて。
その拍子に嵌められた手錠が、耳障りな音を立てた。


―――森に、押し殺した嗚咽が響いていた。











あとがき。
文才の無さをフォローできるか謎ですが、フォロートークをば。
時間軸は王誰大会直前。予選後〜本選前って所です。
予選後すぐに本線の試合を行わず、休憩時間あるいは本選までの数日の間ということで。
コロが兄さんを呼び出した方法は考えてませんが、手紙か何かかと(汗)
ちなみに兄さん、皆様ご存知の通り記憶ありますので。
普段できない素敵なぷれい(何)を試してみたく思ったんでしょうな。
あえなく王子に邪魔されましたが。

兄さんサイド書かないとちゃんとしたお話にならないんですが、ま…気が向いたらね…(滅